■除菌療法を受けるとどんなメリットがあるか?
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者さんでピロリ菌の除菌を行うと、薬を服用しなくても再発がほとんど起きなくなります。このように、潰瘍のある人は除菌のメリットがはっきりしていますが、潰瘍のない人はそのメリットがはっきりとは現われません。しかし、除菌により慢性胃炎が改善することから、胃癌の危険度が低くなることがわかっています。また、潰瘍がないのに胃の症状が出るディスペプシアという病気の場合、除菌により症状が改善することがあります。しかし、除菌が成功しても症状が改善しないこともあり、確実に効果があるわけではありません。このように、除菌であなたの症状が改善するかどうかは、除菌してみないとわからないのです。しかし、中には完全に症状が消失してしまうこともあるので、症状のある人は一度、除菌療法を受けることを勧めます。
■除菌療法の方法と副作用
除菌療法では3種類の薬を同時に1週間服用します。
服用する薬のうち1つは従来からの抗潰瘍剤、あとの2つは通常の抗生物質です。ただし、服用薬が3種類あることと服用量が多いことなどにより、副作用の出る頻度が高くなっています。副作用の種類と頻度は、下痢・軟便10~30%、味覚異常・舌炎・口内炎5~15%、皮疹2~5%で、その他に腹痛、放屁、腹鳴、便秘、頭痛、頭重感、肝機能障害、めまい、掻痒感などがあります。副作用があっても重篤でない場合には、なるべく我慢して1週間薬を服用してもらいます。なぜならば、たいていは服用期間が終われば特別な治療をしなくても自然に軽快するからです。しかし、2~5%の人では治療を中止しなければならないほどの副作用が出ることがあります。薬を途中で中断したり、のみ忘れたりすると除菌に失敗するだけでなく、薬が効かない菌に変わってしまうことがありますので、重篤な副作用がない限り除菌療法の薬はできる限りきっちりと最後まで飲みきってもらいます。
■重篤な副作用とは?
頻回の下痢、発熱、重症の発疹、咽頭浮腫、呼吸困難、出血性腸炎(血の混じった下痢)などが起こることがあります。
一般的に、早く出現する副作用ほど即時型で重篤です。つまり、薬を飲み始めて数分後から数時間以内に出現する副作用は重篤ですので、もし異常が起きたらすぐに服薬を中止し、当院に連絡し、受診してください。咽頭浮腫や呼吸困難など、場合によってはすぐに救急車による受診が必要なものもあります。
■他の薬やアルコールとの併用
除菌薬と他の薬を併用すると副作用が現われることがありますので、常用薬があれば医師にお申し出ください。
また、除菌療法中に他の薬やアルコールは飲まないようにしてください。
除菌療法中に他の医師から処方を受けるときは、除菌療法中であることを伝えてください。
■喫煙の影響
除菌療法中の喫煙の影響はないか、あってもわずかです。
除菌療法中は禁煙する方がいいですが、無理に禁煙しなくても除菌率に大きな差はありません。
■除菌薬の服用開始日
近い将来に重要な用事のある方は、先にその用事を済ませてから除菌薬を服用してください。
除菌は急ぐ必要はありません。
■除菌の成功率
除菌の薬をしっかりと服用した場合、除菌の成功率は83~91%です。
1~2割の人は除菌が成功しないということをあらかじめご了承下さい。初回除菌に失敗しても、再除菌が可能です。
■除菌の判定
除菌が成功したかどうかの判定は除菌療法後すぐにはできません。
除菌療法後少なくとも4週間経過しないと行えません(当院では、通常4週以降に判定しています)。また、抗潰瘍剤や抗生物質を服用している場合には、薬を中止または変更して少なくとも4週間経たないと除菌判定ができない場合があります。検査方法にはいくつかの種類がありますが、ピロリ菌呼気検査をお受けになることを勧めます。除菌が成功したかどうかは1回の除菌判定だけでは断定できませんので、複数回行うか、他の検査(ピロリ菌便検査など)を組み合わせると、より確実になります。
■除菌が成功したなら
除菌療法を受けた人のほとんどは除菌に成功しますが、除菌が成功したと思っても、ピロリ菌がわずかに残っていたり、ピロリ菌に再感染する場合が1%程度あります。除菌が成功すると慢性胃炎はよくなりますが、約10%ぐらいの人に逆流性食道炎が新たに発症することがあります。これは胸やけなど胃酸の逆流症状が出る病気です。ピロリ菌がいなくなって胃酸分泌が回復するために発症すると考えられています。逆流性食道炎は胃酸を抑える薬をしばらく服用していれば治りますが、再発する場合には長期間薬を服用しなければならないこともあります。
除菌が成功すると食欲が増進して太ることがありますので、肥満による成人病の出現にお気をつけください。
太ると腹圧が上昇して胃酸の逆流が起きやすくなるということも逆流性食道炎の原因の1つです。除菌が成功して胃癌の危険度が減っても胃癌発生の可能性は残りますので、1年に1回は胃の検査をお受けになることをお勧めします。
■除菌が成功しなかったら
残念ながら除菌が成功しなかった場合、再除菌が可能です。
再除菌は、抗生物質を変更し、再び同様の治療を行い、同様に除菌判定します。
再除菌の場合、アルコールを飲んではいけない薬を使用することがありますので、その場合は飲酒ができません。 |